0080は『ガンダム』だとは思いません!


★『機動戦士ガンダム0080はウソ0800』★
 1989年3月から8月まで、OVA(オリジナルビデオアニメーション)として発売された「富野由悠季」監督作品ではない、「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」は「ガンダム」と名付けられて、その後に出された書籍等で、まるでガンダムワールドの歴史の一部の様に扱われていますが、正統なガンダムの作品における話と照らし合わせて見た場合に矛盾点が多すぎる作品なのです。
どのような点がおかしいのか、順に挙げていきましょう。
(この文章は1991年頃某所に載せるために書いた文章を基本として、一部を追加したものです)

■こちらのページは「0083」「08小隊」「リアルってなんだろう?」と併せて読む事をお勧めします。特に表示されたURLを貼り付けていらっしゃった方。ここの文章は序文みたいなものです。

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□モビルスーツ(MS)の設定、デザイン等
 これは、この作品、そして以後に出たOVAにおいて最も致命的で、作品の存在自体を「プラモデルのプロモーションビデオ」だと制作側が証明しているような愚かな点です。

 ビデオ発売前、先にMSのデザインを見た時、今までのジムやザクのデザインを出渕裕さん流にリファインしただけで、中身は普通の物と同じだと思ってました。デザイン時のコメントに書いてあった事もそんな様な感じでしたし…。
 まあ、それならばいいんじゃないのかな?って納得していたのですが、なんと、これらのMSは「機動戦士ガンダム」に出ていたMSとは全く別に存在するバリエーションだと聞いた時には怒りましたし、呆れました。こんな物、あるわけないでしょ。

・ジムコマンド、ジムスナイパーII等ジムと名乗る物全般
 ジム(RGM-79)というMSは、大急ぎで、しかもたくさん量産された地球連邦軍のMSです。従ってその形状はガンダム(RX-78)を簡略化したものであり、たくさん製造するために、同じ形の同じ部品を使わなければ無理です。
 0080に登場した、ジムコマンド、ジム寒冷地仕様の様な、デザイン、部品、シールドの形状まで全てが全く異なるような物を生産する暇などあるわけが無いのです。
 ましてや、0080に登場するジムは、全て本来のジムよりも性能が多少上という事になっています。
 では何故、『機動戦士Zガンダム』に登場するジムII、ガンダムZZや逆襲のシャアに登場するジムIIIは、本来のジムをほぼそのまま継承したデザインなのでしょう?
 「機動戦士Zガンダム」にも登場した様な、ジムライトアーマー、ジムスナイパーカスタム、ジムキャノン等のようなバリエーションはデザインや基本スタイルが本来のジムと全く同じなのがすぐ判りますし、ちょっとした外装の交換だけで済むので、これなら1年戦争の時に使われていても不自然ではなく、当然だろうなと容易に想像出来ます。

・ガンキャノン量産型
 いまいち存在意義の判らないMSモドキ。
ガンキャノンの簡易量産型というのは「ジムキャノン」という事になっていた筈です。性能を発揮出来るかはともかく、それこそお手軽に中距離支援出来るMSになれるからです。あと、ガンキャノンそのものも小数ながらそれなりに生産されていると思われます。
 そうなると、このガンキャノン量産型という物は一体何なのか?
単にそんな物を画面に出してみたかっただけ、という理由なんじゃないでしょうか?(笑)
・ザク改
 ザクに変わる新型MSの開発に忙しかったジオン軍が、わざわざデザインを替えてザクを再生産する事などあり得るでしょうか?…甚だ疑問です!(同じ部品のバリエーションならともかく)
 マシンガンまで新しく強力な物になっているそうですが、ではなぜ7年も後に、地球連邦軍のハイザックは、古いタイプのザクマシンガンの改良型を使っているのでしょう?
・ゲルググJ(イエーガー)
 ゲルググは、ビームライフルを作るのに手間取ったそうで、UC0079の終戦間際にやっとプロトタイプが出来た様なMSです。そんなMSのバリエーション、しかもさらに強力なビームライフルなど持っているあろう筈がありません。他に、リックドムII、ズゴックE、ハイゴッグ等、全てが元よりも性能がいい事になっていているのには呆れるばかりです。
・ケンプファー
 これに関しては、元となる物の無い、唯一オリジナルのMSという事もあって、他のMSよりはまだましな方ですが、あそこまで、利用目的を限定したMSをそんな都合良く作るかなあ?と。
 そして、上記のMSに加えられたバリエーション名称にも同じ事が言えますが、いきなりこの今までの流れを無視した「ドイツ語名」は本当に酷い。。

 加えて書くならば「機動戦士ガンダム」というアニメをきちんと見ていた人間ならば作品内においてジオンのモビルスーツの設計構想は試作MSでもない限り、動力パイプ等を外部に出そうなどと全く考えてないという事を理解している筈です。
 動力パイプが付いたMS(MAも含めて)はザクとグフだけです。これは完全な妥協の産物です。目標点であり到達点は旧ザクと呼ばれたザクでしたが、機動性の面から妥協して外部に出しただけであり、グフでは足から消え、その後のMSは完全に内蔵型です。とにかくこんな物が出ている物を作りたくないという流れがアニメを見ていると解るのですが、以後加えられたMSや設定に付けられた解説だけを読んでいる様な人には気付きにくい事柄なのかも知れません。
 出渕さんもそういう人だったのか、ドムやゲルググにさえパイプを付け、新型であるこのケンプファーにも動力パイプを付けています。まあ、安易にMSらしさを出すアクセサリーである事は確かなのですが色々な面で流れを完全に無視したデザインである事は確かです。
・RX-78 NT-1 アレックス
 最後にこれほど設定が曖昧で、インチキなMSはありません。
この機体に関する設定は、雑誌、書籍等に発表する度にコロコロと変わり、非常に曖昧で、綻びが目立っていました。
 一番最初の設定では、
「このガンダムは当初からニュータイプ(以下NT)専用機として製造されたもので、MS開発史上初のリニアシートシステムが装備された。このNT-1の他に連邦軍では4号機、5号機、6号機、そして設計段階で終戦を迎えた7号機を開発していた」
 地球連邦軍は一部の者を除いてはNTなんて信じてはいなかったし、戦争末期までは研究すらしていなかった筈。その上、リニアシートというのはジオン軍で研究、開発されていたという設定を「Zガンダム」時にきちんと作っているのです。自らが作った設定を覆してまで、なんでこのようなガンダムを出さなくてはいけないんでしょうか?

 NT-1の肩には[4]という数字が付いています。これは恐らくデザインをした出渕裕さんが「ガンダム4号機」のつもりで描いたものだったのでしょう。ところが、上記では、NT-1と4号機は全く別の存在であると書いてますよね。これが引っ掛かったのか、しばらくすると設定がこう変わります。
「1年戦争終結間際、RX-78 4号機をアムロ専用機に改修、アムロ少尉の記録的な戦果を記念して『NT-1』の型式が付けられた」
 …『ガンダム4号機』のデザインや武装は、NT-1とはかけ離れていて、改修どころで作れるものではなく、相当な矛盾が残ります。
 まあ、あたくし自身としてはガンダム4号機〜7号機等も実際に存在したとは思ってませんけど…。

 最初に書いた様に、この作品に出ているMSのデザインが飽くまでもオリジナルのMSのリファインであれば何の問題もないのです。やたらシャープなデザインのムサイ級やチベ級の艦船が出ていても、とにかくこの作品世界だけで完結出来る物になるからです。
 しかし、これらおかしなデザインのMSモドキ群が『機動戦士ガンダム』のMSとは別に存在するという設定に大きな不満と矛盾が出来てしまうのです。
 この話は「0083」「08小隊」においても続けて訴えて行きます。
□「機動戦士ガンダム」における歴史的事実(設定)との矛盾
 この『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』という話は主に、中立的立場を取っているスペースコロニー「サイド6」が舞台ですが、中立とは言いつつも実際は政治的にジオン側に付いているコロニーです。こういう事実は「機動戦士ガンダム」作品中(特に劇場版III)でしっかりと語られています。コロニー落としや毒ガスの被害にも遭わなかったのも、それなりの取引があったものと考えられます。
 しかし、この話においては「中立」なんて状況は何処にもなく、ましてや、ジオン寄りどころか連邦寄りにしか見えません。

 コロニー内部には連邦軍の大きな基地があり、NT-1が簡単に中に運ばれてしまうどころか、サイド6領空内では一切の戦闘行為が禁止の筈なのに、領空内どころかコロニー内にMSや戦艦入り放題、戦闘し放題と、冗談としか思えない様なシーンが目白押しです。
 これは『機動戦士ガンダム』で作った設定、そしてそれを活かし切って描いた、ホワイトベースがサイド6領空内から領空外へ出て始まる緊張感溢れる戦闘シーンを愚弄していると言っていいです。

 更に書くならば、アムロとシャアが戦争中でありながら、何故それぞれ一人の人間としてサイド6において出会う事が出来たか?という事を考えてみて下さい、ジオンも連邦もこのサイド6のルールを厳守しているという描き方があってのものなのです。この名シーンをも台無しにする様な「0080」におけるサイド6の描かれ方はあまりにも酷すぎます。

「連邦軍にMSなんかあるわけないのに」
 これは1話において優等生っぽい女の子、ドロシーが言う台詞なのですが、明らかに変です。何故ならばこの時期(12月16日〜19日頃)には既にホワイトベースがサイド6に立ち寄った直後のコンスコン隊との戦闘をTV局がサイド6全コロニーに生中継しているのです。当然老若男女問わず話題になっているでしょうから、こんな台詞が出る訳がありません。もはや、『機動戦士ガンダムとは別の世界の話』と考えるしかないでしょうね。

「U.C.0079.12.21 公国軍、連邦軍北極基地を襲撃」
[機動戦士ガンダム MS大図鑑4より]

 これは、一般的に公式年表と言われている物に当初載ったものですが、後に12月21日から12月14日に書き替えられています。
 さらに最近確認したものによると12月9日に替えられています。
(そのままの物も一部あります)
 最初に作った設定があまりにもいい加減だったため、後になってから辻褄が合わなくなったからです。こんな後からいくらでも書き替えて誤魔化す様な物を「公式だ」なんていう制作側の都合だけの物に頼っていいものなのでしょうか?

 両軍のMSや戦艦の性能の高いバリエーションだけが一ヶ所に集まって戦闘するという事だけでも変なのに、本来あるべき設定をも狂わせてしまう作品というのは如何なものでしょうか?
□作品自体の評価、そして以後の弊害
 この話は、ストーリーや演出面で非常に良い面も多くあるだけに、基本的な設定さえしっかりしていたならば、本当にいい作品と成り得た可能性を持っていました。強いて近い雰囲気の物を選ぶなら、ガンダムのTV版15話の「ククルスドアンの島」をよりジオン寄りに、より悲劇的に描いたとも言えるものがあります。
 最後のザク改とNT-1の闘いは見応えもありますし、その結果から来る主人公のアルに与える影響、そしてラストと、なかなか訴えかけて来ます。(ただ、意図が解りすぎてイヤらしい演出ですけどね)
 ここのページのタイトルこそ目を引くために大袈裟ですが、「ガンダム」としては認めたくないものの、作品としての評価は個人的にも高いのです。現在までに数多くの「ガンダム」関連作品が作られていますが、こういった視点での作り方は他にありませんし、テーマや内容が被る様な物よりはよっぽどいいと思っています。

 だからこそ、変に設定を無視し過ぎた作りが残念でなりません。サイド6の設定にしてもそうですが、別にこの話に新しいデザインのMSがどうしても必要だったわけでもないだろうし、既存のMSを使おうが、演出次第でどんな見せ方でも出来たでしょう。

 今からでも、やはり当初のコンセプト通り、MSは「機動戦士ガンダム」に登場した物のリファインという事にするべきでしょうし、作品そのものも、『機動戦士ガンダム』と同一世界というものを外して、「if」的な外伝という立場にしてあげた方がこの作品の評価のためにはよっぽど良いのではないかと思います。

 この作品が以後に残した弊害は非常に大きく、特にMSに関して「機動戦士ガンダム」のMSが登場するゲーム等において、ザク、ドム、ズゴック、ゴッグ、ゲルググ、ジム等のMSが全て0080系統のデザインの物に差し替えられてしまった事です。
 ズゴック等は、0080においてもズゴックEが1話の冒頭数分にしか登場しないのにも関わらず、差し替えられています。
 サターンのゲーム「機動戦士ガンダム外伝I〜III」においては、ジムを自機として操縦出来るのですが、そのジムが0080デザインのジム・コマンドです。商品パッケージは「普通のジム」なのにです。JAROに訴えようかと思いました。(苦笑)
 この他にもオリジナルのMSや0080タイプのMSが多数登場しますが、 まあ、これはゲームの中だけの話だからいいんです。この事まで「正史」だとか言われても説得力無いですし。
 ただ、ジム好きなので、ジムくらいは普通のジムに乗りたかったです。なんでゲームの中まで、あるわけもない変なジムもどきに乗せられないといけないのか哀しい…。
 この事について、後に雑誌でゲーム制作側の方が語った発言があるのですが、これは「0083」の項にて書かせて頂きますね。

 そしてもう1つ、「ジオン公国の(ナチス)ドイツ化」がここから始まってしまっています。もちろん『機動戦士ガンダム』におけるジオン公国にはドイツを連想させる事柄はいくつもありますが、決してドイツそのものなのではありません。大日本帝国も含めて複合的なイメージと言っていいでしょう。
 それが出渕裕さんの個人的趣味の反映で、モビルスーツ名やバリエーション名にドイツ語が付き、今や「ドイツ語さえ付けておけば新しいバリエーションの出来上がり」状態です。…ひどいものです。

 0080に関する事はひとまず終わりまして、次は最も忌むべき「0083」に関するお話へ続きます。メニューからどうぞ。

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